◎製鉄スラグからの排熱回収による材料乾燥
1.はじめに
1.1 スラグの熱回収
溶融スラグからのエネルギー回収は、鉄鋼生産におけるエネルギー効率を向上させるための手段の一つですが、現時点では十分に活用されていません。鉄鋼生産において、スラグは質量比で90%を占める主要な副産物です。溶融スラグは1300〜1700℃で生成され、排出される際には多量の高品質な熱を伴っています。鉄鋼スラグが持つエネルギー量は、出滓(しゅっさい)温度においてスラグ1トンあたり約1〜2 GJに達しますが、高温のスラグがそのまま排出されることで、その一部が失われています。排出されたスラグは、製造プロセスから直接水砕処理されるか(高炉スラグで一般的な手法)、あるいはスラグポットに受け入れられてスラグ処理エリアまで運搬されます。その後、運搬されたスラグはスラグ投棄場へと流し込まれます。重要な点として、現在、投棄されるスラグが持つエネルギーの大部分は、そのまま無駄にされています。
1.2 RecHeat技術
RecHeat(溶融スラグからの熱回収)技術の革新は、「可能な限りシンプルに利用できる」という考え方に基づいた、熱交換器型の技術です。
この装置はシンプルな金属板で構成されており、スラグが熱交換構造の表面に半直接的に接触することで、効率的な熱交換を実現します。また、安全性、簡便性、および実用性を考慮し、熱特性の面では水の方が優れているものの、熱輸送媒体には水ではなく空気が採用されています。実際の運用においては、製鉄所から排出されたスラグは、スラグ運搬用トラックによってRecHeatの装置まで運ばれます。
続いて、スラグ運搬車がスラグポットを傾け、RecHeat(レックヒート)の所定のエリア上にスラグを配置します。この構成により、スラグから周囲へとエネルギーが放射され、2つの入り口から装置内へ空気が吸い込まれると同時に、RecHeatの構造体が加熱されます。
RecHeatの出口から排出される空気は、乾燥工程に利用することができます。乾燥媒体(熱媒体)にかかるエネルギーが乾燥プロセスの運用コストの50〜70%を占めることを踏まえると、これは大きなメリットとなり得ます。
2. 形状、モデリング、およびモデルのセットアップ
本研究の目的は、熱交換器の概念に基づき、空気を作動媒体としてスラグからエネルギーを回収し、それを乾燥に利用できる最適な装置を設計することです。したがって、モデリング作業の焦点は、数値流体力学(CFD)を用いてシステムの効率を予測することに置かれてきました。このようなシステムは、市販のCFDコードを利用し、ナビエ・ストークス方程式およびエネルギー方程式を用いることで、特別な修正を加えることなく容易にモデル化できます。
2.1 形状
図1は、実際の「RecHeat」の全体構成を示している。図からわかるように、RecHeatは熱交換器と、それに接続された集気管(コレクター)で構成されています。熱交換器は3層が積み重なった構造となっており、各層は4枚の金属製プレートで構成され、それぞれに5つの流路が設けられています。また図に示す通り、熱交換器の出口は集気管の末端(図の左下隅)に位置しており、空気は反対側(図の右側)の開口部から下層の流路へと吸い込まれます。このような構成では、装置の構造物が加熱されて上層のスラグからエネルギーを抽出する一方、システムに流入する空気は、プロセスの初期段階において、主に下層の温度上昇に寄与します。

図1 熱交換器とスラグ層

図2 解析領域
2.2 モデリング手法
次に生じる当然の問いは、「どのようなモデル設定が、現状の構成をより現実的に再現できるか」という点です。この問いに答えるにあたっては、当該装置が周囲の空気を吸い込む設計になっていることを考慮する必要があります。この空気は、スラグの冷却過程において、放射熱や対流熱の影響を受けることになります。
したがって、システムに流入する空気の温度は、スラグの冷却が進むにつれて当然変化し得ると考えられます。より現実的なモデルを構築する上で、商用CFD(数値流体力学)コードである「PHOENICS」が適していることが確認されました。本適用例において、計算領域は、図2に赤線で示された箱状の空間とする。このモデル設定では、赤い箱の外側面を、周囲温度に固定された圧力境界として扱う一方、底面は地面を模した壁面として扱います。これにより、スラグの冷却挙動や、RecHeat(熱回収装置)に流入する空気の経時的な変化を、より現実的にモデル化することが可能になります。
2.3 初期条件と境界条件
このモデルの初期条件と境界条件は次のようにまとめることができます

表1 モデルの初期条件と境界条件
空気流量は、ファンの想定稼働流量に相当する2.5 kg/sに設定しました。また、スラグ温度は、試験場所に到達したスラグの平均温度にしました。スラグの厚みについては、スラグポットの容積に基づいて算出しました。
3. 結果と考察
RecHeatのモデリングは、構造加熱段階と熱交換段階という、明確に異なる2つの部分に分けることができます。
3.1.構造加熱段階
実際のプロセスにおいては、装置の温度は周囲の環境と平衡状態にあると考えられます。したがって、このプロセスの第一段階の目的は、構造体の温度を可能な限り高くすることです。構造体の上にスラグを流し込むと、装置本体は熱伝導を通じてスラグのエネルギーを吸収します。それと同時に、スラグから放射されるエネルギーが周囲の空気を瞬時に加熱します。加熱され装置内に吸い込まれた空気は、装置内部を流れる過程で、構造体本体との間でエネルギーの交換を行います。

表2 構造加熱段階における2つの時点での、各層の各パレットの温度
表2は、熱交換器の3つの層における各パレットの温度を、初期段階と定常状態終了時の2つの時点について示しています。予想通り、熱交換器の最上層で温度が最も高くなる一方、中間層のパレットは最下層のパレットよりも少なくとも2℃低い温度を示します。しかし、この傾向は、最初の段階が終了する時点では逆転します。
3.2.熱交換段階
3.2.1. 気流温度分布
図3.1および図3.2は、装置内の熱交換器(HEx)セクションにおける入口および出口の平均空気温度の経時変化を示しています。図からわかるように、熱交換器に流入する空気の温度は、当初、上昇を続けています。これは、過渡シミュレーションの開始段階において、スラグからの放射によって周囲の空気がエネルギーを取り込んでいることに対応しています。しかし、その後この傾向は変化し、熱交換器に流入する空気の温度は急速に低下し始めます。一方、熱交換器の出口側では、シミュレーションのほぼ中間地点まで、空気温度の上昇が続きます。

図3.1 熱交換機入口での平均温度

図3.2 熱交換機出口での平均温度
図4は、装置出口における空気温度を示しています。図からわかるように、過渡期間の開始時における製品温度は328°Cであり、その後350°Cまで上昇してピークに達し、シミュレーション終了時(1500秒時点)には340°C近くまで低下します。ピークは過渡過程の開始から650秒後に現れ、この時点で温度曲線の変化の向きが反転します。

図7 最終結果である空気温度
3.2.2. 流線および空気分布
図5は、RecHeatの熱交換部を通過する際の媒体の温度変化を示しています。
図からわかるように、流線の発生源は入口ポートの上方に設定されています。放射の影響を無視しているため、システムに流入する媒体はほぼ周囲温度に近い状態となっています。
さらに、図からわかるように、装置の熱交換部における最下層の空気温度は、依然として150℃を超えていません。中層の終端に達すると状況は変化し、空気温度は200℃以上に上昇しています。熱交換部の末端では、4つの区画のうち3つにおいて、空気温度は出口温度に近い値となっています。全体として、上部2層(上から見た場合)の空気温度は、下部2層のそれよりも高いことが見て取れます。

図7 熱交換機内の流線(色は温度)
4. まとめ
本熱回収プロセスには、構造加熱段階と熱交換段階という2つの段階があります。前者の段階では装置本体の温度が上昇し、後者の段階では、吸い込まれた空気が熱交換部の各層を通過する過程で温度が上昇します。モデルによると、構造加熱段階が終了した時点での熱交換部の各層の温度は、それぞれ約170℃、250℃、380℃となっています。一方、熱交換部入口における空気の平均温度は150℃未満です。
システムが熱交換器の段階に入ると、パレットの温度変化の傾きが変化します。これは、システムに流入する空気が、構造体に蓄積されたエネルギーを吸収し始めるためです。シミュレーション終了時、熱交換器セクションの一端から他端にかけて、流体媒体の温度が125ー140℃の範囲から260ー340℃の範囲へと変化することがわかりました。
シミュレーション終了時の出口温度は約340℃になり、これは装置に流入する空気の温度が少なくとも200℃上昇したことを示しています。
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